「歩くと人生が変わる」は本当か歩数・速さ、そして誰も測っていない靴の話

「歩くと人生が変わる」は本当か
歩数・速さ、そして誰も測っていない靴の話

※この記事で紹介する研究は、すべて出典を明記しています。数字の読み方についても、言えることと言えないことを分けて書きました。

この記事の結論

  1. 1万歩は目標として高すぎる7,000歩から効果が確認されている。4,000歩でも変わり始める
  2. 歩くのは週2日でも足りる「週2日だけ歩く人」と「ほぼ毎日歩く人」を比べても、死亡リスクはほとんど変わらなかった
  3. ただし、どの研究も「靴」を測っていない合わない靴で歩数を稼ぐと、効果を上回るマイナスが出ることがある
7,0001日の目安
1万歩でなくていい
週2この頻度で
恩恵の大半が届く
0靴を記録していた
研究の数

「1日1万歩」。

たぶん、日本人の多くが一度は聞いたことのある数字だと思います。

でもこれ、医学的な根拠から出てきた数字ではありません。数十年前、日本で万歩計を売るときのキャッチコピーとして広まったものです。日本発の宣伝文句が、いつのまにか世界中の「健康の常識」になった。そして今、その常識が研究によって次々と書き換えられています。

「歩くと人生が変わる」

最近この言葉をよく見かけます。結論から言うと、これは半分本当で、半分は語られていません

歩くことの効果は、思っていた以上に大きい。ここは本当です。

でも、どの研究も測っていないものがひとつあります。その人が、どんな靴で歩いたかです。

足育カウンセラーとして毎日足を見ている立場から、その「語られていない半分」の話をします。

学生時代、サッカーをしていました。

同じメニューを、同じ時間、同じグラウンドで。それなのに、怪我をする選手としない選手がいる。あれがずっと不思議でした。

練習には効果があるはずです。それなのに怪我をするということは、効果を上回るマイナスが、どこかで発生しているということになる。じゃあ、そのマイナスはどこから来ているのか。

私が足と靴の世界に入ったのは、この疑問がきっかけでした。

そして今、まったく同じ構図を歩数の話に見ています。歩くことには効果がある。でも、それを上回るマイナスを受け取ってしまっている人がいる。

歩数思ったより、少なくていい

まず、歩数の話から。

2023年にヨーロッパの学術誌で発表されたメタ解析(複数の研究をまとめて分析する手法)があります。17の研究、のべ22万6,889人分のデータ。

  • 1日の歩数が1,000歩増えるごとに、全死因の死亡リスクが15%低い
  • 500歩増えるごとに、心血管系の死亡リスクが7%低い
  • 1日約3,900歩あたりから、もう効果が見え始める

3,900歩。だいたい30分ちょっとの散歩です。

もうひとつ。2021年にアメリカで発表された研究(CARDIA研究)では、38〜50歳の2,110人に加速度計をつけて、平均10.8年追いかけました。結果、1日7,000歩以上の人は、7,000歩未満の人より死亡リスクが50〜70%低かった

ちなみにこの研究では、「速く歩いたかどうか」は死亡率と関係していませんでした。量が効いていた、ということです。

1万歩じゃなくていい。7,000歩でいい。なんなら4,000歩からもう変わり始める。

千里の道も一歩から。

ただし、その千里は思ったより短いかもしれません。

頻度毎日じゃなくていい

「でも毎日は無理です」

カウンセリングでいちばんよく聞く言葉です。仕事が終わって、子どもを迎えに行って、ご飯を作って。歩く時間なんてどこにある、と。

ここに、京都大学の井上浩輔先生たちの研究があります(2023年発表)。対象はアメリカの成人3,101人で、10年間の追跡調査です。

「週に何日、8,000歩以上歩いたか」で3つに分けました。0日/1〜2日/3〜7日です。

週に8,000歩以上歩いた日数全死因死亡リスク(0日の人と比べて)
週1〜2日約14.9%低い
週3〜7日約16.5%低い

もう一度見てください。週1〜2日と、週3〜7日で、ほとんど差がない。

しかも保護的な効果は、週3日でほぼ頭打ちになっていました。

つまり、土日にしっかり歩くだけで、毎日歩いている人の恩恵のかなりの部分を受け取れている可能性がある、ということです。

「毎日できない自分はダメだ」

そう思って何もしなくなるのが、いちばんもったいない。週2日でいいんです。

速さ「速さ」が示しているもの

ここからが、いま一番ホットな話題です。

2026年7月14日、脳神経学の専門誌『Neurology』に発表された研究。80代以上の高齢者、約4,000人(平均年齢84歳)を調べました。

同年代の上位7%に入る速さで歩ける人を「スーパームーバー」と名づけて追跡したところ、

  • 認知機能障害を発症する割合が、約50%少ない
  • アルツハイマー病や認知症の診断報告が、約60%少ない
  • 記憶を司る「海馬」が大きい傾向がある

そしてここからが本当に面白いところなんですが、亡くなった方の脳組織を調べたら、スーパームーバーもそうでない人も、アルツハイマー病に関連する脳の変化の量は同じくらいだったそうです。

病理はあった。でも、機能は保たれていた。

研究チームは「回復力のある脳を持っていたのかもしれない」と表現しています。

ただし、ここは慎重に

この研究は「速く歩けば脳が守られる」ことを証明していません。速く歩けるから脳が元気なのか、脳と体が元気だから速く歩けるのか。この順番は、まだわかっていません。

観察研究というのはそういうもので、「一緒に起きている」ことはわかっても「どちらが原因か」は言えません。ここを飛ばして「速く歩けば認知症が防げる」と書く記事は、鵜呑みにしないほうがいいです。

そのうえで。歩く速さが体と脳の状態を映す鏡になっている、というのは間違いなさそうです。

歩く速さは、今のあなたの履歴書。

日本ところで、日本はどうなのか

ここまで紹介した研究は、すべて海外のものです。日本はどうなのか。ここが一番気になるところだと思います。

日本人は、意外と歩いている

2017年、スタンフォード大学のチームが『Nature』に発表した研究があります。スマホアプリの歩数データ、46カ国・71万7,527人分。世界平均は1日約4,961歩でした。

1日の平均歩数
香港(1位)6,880歩
中国6,189歩
ウクライナ6,107歩
日本6,010歩
アメリカ(30位)4,774歩
インドネシア(最下位)3,513歩

日本は1日約6,000歩で、世界のトップグループ。世界平均を1,000歩以上、アメリカを1,200歩以上、上回っています。

そしてこの研究の一番の発見は、平均歩数そのものではありませんでした。「活動格差」——よく歩く人とまったく歩かない人の差が、その国の中でどれだけ開いているか。この格差が大きい国ほど、肥満率が高かったのです。

そして日本は、香港・中国・スウェーデン・韓国などと並んで、この格差がもっとも小さい国のひとつでした。

もうひとつ、日本について面白い記述があります。この論文では、調査した46カ国すべてで女性の歩数が男性より少なかったのですが、日本は男女の歩数分布がほとんど重なる国の代表例として図に取り上げられています。逆に格差の大きいアメリカやサウジアラビアでは、女性の歩数だけが大きく落ち込んでいた。

つまり日本は「みんながそこそこ歩く社会」です。駅まで歩く、乗り換えで歩く、コンビニまで歩く。車社会のアメリカとは、生活の設計そのものが違う。

このデータはスマホアプリ利用者のものなので、高齢者や地方の実態は反映されにくい点は割り引いて見てください。

国の目標は、1万歩ではない

厚生労働省の「健康日本21(第三次)」(2024年度スタート)が掲げる歩数の目標は、成人で1日8,000歩、高齢者で6,000歩です。

1万歩ではありません。国もとっくに現実的な数字に直しています。

では実際の平均は。令和6年(2024年)の国民健康・栄養調査によると、20歳以上の平均は1日7,071歩(年齢調整値7,231歩)。男性7,763歩、女性6,495歩でした。

前年より大きく増えていますが、ここは少し注意が必要です。令和6年は、4年に1度の拡大調査の年でした。都道府県別の状況を把握するために規模を広げた年で、通常年とは調査の設計が異なります。増加の一部は、この違いを反映している可能性があります。

いずれにしても、目標の8,000歩まではあと1,000歩ほど。時間にして10分ちょっとの散歩です。

そして、日本人の足が変わってきている

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいことかもしれません。

日本皮革産業連合会が2021年に行った大人の足の大規模計測で、驚くべきことが起きていました。

足囲(足まわりの太さ)が、大規模調査が始まって以来、この40年でもっとも細くなっていた。

  • 全体でもっとも多い足囲は、男性がEE、女性がE
  • 44歳以下の男性では、もっとも多いのがEにシフト
  • 64歳以下の女性では、もっとも多いのがDにシフト
  • 44歳以下の女性ではC・D・Eの出現がほぼ同率(21〜25%)という、過去に例のない状態

「日本人は幅広・甲高」

そう思っていませんでしたか。私も長くそう聞かされてきました。でも、今のデータはそれを支持していません。若い世代ほど、足は細くなっている。

それなのに、靴売り場に並んでいるのは3E、4E。

つまり日本では、「足は細くなっているのに、靴は広いまま」というねじれが起きている可能性があります。

実は、計測の現場でずっと感じていたことがあります。

子どもたちの足が、ひょろひょろしている。細くて、薄い。

ただ、これはあくまで肌感でした。私が見てきた範囲の話でしかないし、そう感じているだけかもしれない、と。

だから今回、この調査結果を見たときは正直、驚きました。現場の実感と、40年分のデータが一致していたからです。

ここまでの研究が、ひとつも測っていないもの

さて、本題です。

ここまでいくつもの研究を紹介しました。歩数、日数、速さ、国際比較。どれも大規模で、丁寧な研究です。

でも、どの研究も「その人がどんな靴で歩いたか」は記録していません。

これ、現場にいる人間からするとかなり大きな穴です。

痛いからと1サイズ大きい靴を選ぶ。幅が当たるからと幅広を買う。ひもは結びっぱなしで、脱ぐときはかかとを踏む。

こういう靴で歩くと、足の中で毎歩ズレが起きます。指は靴の中で前に滑り、それを止めようとして指が縮こまる。かかとはブレる。地面を蹴るはずの足が、蹴る前に逃げる。

その状態で1万歩。

Garbage in, garbage out.

入れるものが崩れていれば、出てくるものも崩れる。

フォームの崩れた素振りを1万回して、バッティングが良くなるでしょうか。ならないですよね。むしろ変な癖がつく。

歩行も同じです。合わない靴で歩数だけ稼ぐと、外反母趾、タコ、足底腱膜炎、膝や腰の痛み。「健康のために始めたウォーキングで足を痛めました」という方が、カウンセリングに来られます。

たとえば、こんな方がいました。

歩くことが趣味のおばあちゃんです。とにかくよく歩く。話していても頭の回転が速くて、こちらが驚くくらいでした。運動を続けてきた成果が、そのまま出ている方だと思いました。

ところが、膝が痛くなった。

最初は距離が短くなり、次に回数が減り、だんだん歩かなくなっていきました。

好きなことができなくなる。これは健康の話である前に、その人の毎日の話です。

そして正直に言うと、私はもうひとつ心配していることがあります。歩かなくなったこの先、あの頭のキレはどうなっていくんだろう、と。

さきほど紹介した研究では、因果関係は証明できていません。それはその通りです。ただ、現場で人を見ていると、歩けなくなることは足だけの問題では終わらない気がしています。

歩数は貯金です。靴は、その貯金を入れる口座。

口座に穴が空いていたら、いくら入れても貯まりません。

実践じゃあ、どうするか

三つだけ。

① 歩数の目標を下げる

1万歩をやめて、7,000歩に。それも週2日でいい。ハードルが高い目標は、人を動かしません。動かないなら、その目標は機能していない目標です。

② 靴を1足、見直す

いちばん長く履いている靴を1足だけ見てください。

かかとの内側が減っていないか外側がやや減るのは正常です。内側が減っているときは、かかとが内に倒れたまま歩いている可能性があります。
中敷きの親指の付け根が、へこんでいないかへこんでいなければ、母趾球で地面を押せていないかもしれません。押せている足は、ここに跡が残ります。
つま先を持って、靴がねじれないか雑巾のように簡単にねじれる靴は、足を支えていません。ねじれる分の仕事は、足の腱が引き受けます。

ひとつでも当てはまったら、その靴で歩数を稼ぐのは一度止めたほうがいい。

③ ひもを、毎回結ぶ

いちばん地味で、いちばん効きます。ひもを結ばない靴は、サイズが合っていても合っていないのと同じです。

最後に、私自身の話を

私の足は、細いです。

でも、それに気づいたのはこの仕事を始めてからでした。それまで私は、自分の足は太いと思い込んでいたんです。

実際は、ただの扁平足でした。アーチが落ちて、横に広がって見えていただけ。太かったわけではなかった。

だから当然のように、幅広の靴を選んで履いていました。しかも子どもの足は柔らかいので、合わない靴にも柔軟に変形して合わせてくれてしまう。痛くないから、間違いに気づけない。

そして今、私には捻挫癖があります。

これがあのときの靴のせいだと、証明はできません。でも私は、そう思っています。

Q&Aよくいただく質問

1日1万歩に、根拠はないのですか?

医学研究から出てきた数字ではありません。日本で万歩計が販売された際のキャッチコピーが広まったものとされています。ただし1万歩が悪いわけではなく、歩けるならそれに越したことはありません。問題は、高すぎる目標のせいで何もしなくなることです。

何歩から効果がありますか?

メタ解析では1日約3,900歩あたりから死亡リスクの低下が見え始めています。1,000歩増えるごとに全死因の死亡リスクが15%低いという関係も報告されています。まずは今の歩数に1,000歩足すところからで十分です。

毎日歩かないと意味がないですか?

そんなことはありません。週に何日8,000歩以上歩いたかで比べた研究では、週1〜2日のグループと週3〜7日のグループで、全死因死亡リスクの差はごくわずかでした。保護的な効果は週3日でほぼ頭打ちになっています。

速く歩いたほうがいいですか?

歩く速さは体と脳の状態をよく映す指標です。ただし「速く歩けば認知症を防げる」ことは証明されていません。速く歩けるから元気なのか、元気だから速く歩けるのか、順番はまだ分かっていないためです。無理に速度を上げるより、まず量と継続を優先してください。

ウォーキングを始めたら足が痛くなりました。歩き方が悪いのでしょうか?

歩き方より先に、靴を見てください。大きすぎる靴、幅の広すぎる靴、ひもを締めていない靴では、足が靴の中で毎歩ずれます。歩数を増やした分だけ、そのずれも増えます。なお痛みが続く場合は、自己判断で歩き続けず整形外科を受診してください。

ウォーキング用に、幅広の靴を選んだほうがいいですか?

足が幅広であれば、それが正解です。ただ「日本人は幅広」という前提は、いまのデータでは支持されていません。2021年の大規模計測では、若い世代ほど足囲が細い傾向が出ています。幅は思い込みではなく、実際に測って決めてください。

まとめおわりに

「歩くと人生が変わる」

はい、変わります。研究がそう言っています。

ただ、変わる方向は、あなたが何を履いているかで決まります。

同じ1万歩でも、足を育てる1万歩と、足を削る1万歩がある。

歩き始める前に、玄関の靴を1足だけ見てください。人生が変わるかどうかは、たぶんそこから始まります。

そして、見てもよく分からなかったとき。あるいは、当てはまる項目があって不安になったとき。ひとりで判断しなくて大丈夫です。

FOOT COUNSELING あなたの靴と足を、一緒に読み解きます いま履いている靴を見せてください。減り方、かかとの倒れ、足との相性を一緒に確認して、次の一足の選び方までお伝えします。
参考文献
  1. Banach M, et al. The association between daily step count and all-cause and cardiovascular mortality: a meta-analysis. European Journal of Preventive Cardiology. 2023;30(18):1975-1985.
  2. Paluch AE, et al. Steps per Day and All-Cause Mortality in Middle-aged Adults in the Coronary Artery Risk Development in Young Adults Study. JAMA Network Open. 2021;4(9):e2124516.
  3. Inoue K, Tsugawa Y, Mayeda ER, Ritz B. Association of Daily Step Patterns With Mortality in US Adults. JAMA Network Open. 2023;6(3):e235174.
  4. Jayakody O, et al. Exceptional Aging: Cognitive and Brain Health in Super Movers. Neurology. 2026.(2026年7月14日オンライン公開)
  5. Althoff T, et al. Large-scale physical activity data reveal worldwide activity inequality. Nature. 2017;547:336-339.
  6. 厚生労働省「健康日本21(第三次)」身体活動・運動分野の目標値/同「令和6年 国民健康・栄養調査結果の概要」(令和6年は4年に1度の拡大調査年)
  7. 日本皮革産業連合会「2021年 大人の足サイズ計測」

足育心育カウンセラー