子どもの言葉の発達順序|「欲求の言葉」から始まる理由

なぜ1歳児は「食べたい」から覚えるのか
娘の言葉と、心が育つ順番

※この記事で紹介する研究は、すべて出典を明記しています。発達には大きな個人差があります。この記事は「うちの子は早い・遅い」を判定するためのものではなく、「心はどの順番で育つのか」を考えるためのものです。

この記事の結論

  1. 子どもは、指させない言葉を「場面ごと」覚える図鑑に載っていない「食べたい」「楽しい」を覚えられるのは、相手の心を読む力が育っている証拠
  2. 心の言葉には、出てくる順番がある「〜したい」(欲求)が先、「〜と思う」(思考)が後。発達研究で確かめられている順番です
  3. 親にできるのは「気持ちの実況中継」教えなくていい。気持ちに名前のラベルを貼って返すだけで、心の土台が育つ
0娘に「重い」を
教えた回数
1歳半ごろ「〜したい」が
出はじめる目安
3歳ごろ「〜と思う」が
出はじめる目安

抱っこをしようとしたら、娘が先に言いました。

「おもい〜」

……それ、妻のセリフです。

1歳の娘です。抱っこのたびに「重いね〜」と言っていたのは、妻でした。私は言った覚えがありません。それなのに娘は、私に抱っこされる場面で、自分から「重い〜」。

妻は笑いながら、「ごめんね」と娘に謝っていました。

私も笑いました。でも、メンタルトレーナーとしては、笑って終われませんでした。

誰も娘に教えていません。しかも、ママの場面で覚えた言葉を、パパの抱っこで使ってきた。だから余計に驚いたんです。

そしてよく考えると、娘が覚えている言葉には、ある偏りがありました。今日はその話をします。子育ての話に見えて、最後は大人のメンタルの話になります。

気づき覚えた言葉を並べてみたら

娘が最近覚えた言葉を並べてみます。

みて。辛い。食べたい。寝たい。楽しい。

図鑑を見て「わんわん」「ぶーぶー」と名詞を覚えるのは、まだ想像がつきます。絵と言葉をセットで見せてもらえるからです。本もよく読んでいるので、そこから覚えた言葉もあるでしょう。保育園で覚えてきた言葉も、きっとあります。

でも「食べたい」「楽しい」は、図鑑に載っていません。

指させない言葉です。絵に描けない言葉です。それなのに、覚えている。

そして並べてみて、気づきました。

ほぼ全部、「欲求」と「感情」の言葉なんです。

  • 食べたい、寝たい —— 欲求
  • 辛い、楽しい —— 感情
  • みて —— 「一緒に見てほしい」という、共有の欲求

モノの名前の世界とは別のところで、娘は、心の言葉から覚え始めていました。

「なぜこんなことも……」と驚くような言葉ほど、こちらが教えた覚えのない言葉です。教えていないのに覚えている。ここに、子どもの学び方の秘密があります。

しくみなぜ、指させない言葉を覚えられるのか

理由は、大きく3つあると考えています。

① 場面ごと、丸ごと覚えているから

「重い〜」が、まさにこれです。

娘は「重い=重量が大きい状態を表す形容詞」と理解したわけではありません。「抱っこの場面では、こう言う」という形で、状況とセリフを丸ごと吸収しています。しかも娘は、ママから聞いた言葉を、パパの抱っこの場面で使いました。丸ごと覚えた言葉を、似た場面へ広げ始めている。吸収と応用が、もう同時に起きているんです。

大人は、意味から言葉を覚えます。単語帳のように、言葉と定義をセットで頭に入れる。

子どもは、場面から言葉を覚えます。生活のワンシーンを、音声つきで録画するように。

大人は「授業」で学び、子どもは「生活」で学ぶ。

だから、親が教えたつもりのない言葉ほど覚えている。教えた言葉は授業ですが、抱っこのたびの「重いね〜」は生活だからです。保育園で覚えてくる言葉が多いのも同じ理屈です。保育園は、お着替え、給食、お昼寝と、場面と言葉がセットで何十回も繰り返される場所です。

② 相手の心を読む力が、ちょうど育ってきたから

「食べたい」は指させません。目の前の場面から「今この人は、何の話をしているのか」を推測するしかない。

この、相手と同じものに注意を向けて意図をくみ取る力は、専門的には「共同注意」と呼ばれます。発達心理学者トマセロの研究では、この力が言葉の学習の土台になっていて、ちょうど1歳前後にぐんと伸びることが示されています。

つまり、こういうことです。

指させない言葉を覚えられること自体が、心が育っている証拠。

「みて」と言えるのは、「自分が見ているものを、この人にも見てほしい」という他者の視点が芽生えたから。1歳児の語彙は、心の発達の成績表でもあるんです。

③ 日本語が、そういう言語だから

もうひとつ、意外と知られていない話を。

英語圏の子どもは、名詞を先に覚える傾向が強いことが知られています(「名詞バイアス」と呼ばれます)。ところが韓国語の子どもを調べた研究では、動詞をかなり早くから覚えることが報告されました。名詞が先というのは、世界共通ではなかったんです。

日本語も、動詞や形容詞が覚えやすい側の言語だと考えられています。理由はシンプルで、

  • 日本語は動詞・形容詞が文の最後に来る。「おもいねぇ」「たべたいの?」——いちばん耳に残る位置に、いつも述語がある
  • 日本の親は、モノの名前を教え込むより、「おいしいね」「たのしいね」と気持ちのやりとりを多く話しかける傾向がある、という日米の母親の比較研究がある

娘が欲求と感情の言葉から覚えているのは、娘の個性であると同時に、日本語で暮らす子どもの学び方でもある、ということです。

ただし、ここは慎重に

「覚えている」ように見えても、大人と同じ意味の範囲で使えているとは限りません。この時期の子どもは、「重い」を持ち上げる場面全般で言ったり、覚えた言葉を広めに使ったりします(過剰般用と呼ばれます)。それは間違いではなく、意味の輪郭をこれから削り出していく途中だということです。

また、言葉の出る時期には大きな個人差があります。この記事の月齢はあくまで研究上の目安で、「早いから優秀、遅いから心配」という話ではありません。

順番心の言葉には、順番がある

ここからが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。

子どもが「心について話す言葉」を、どの順番で覚えていくか。これを丁寧に調べた研究があります。発達心理学者のバーチュとウェルマンが、子どもたちの日常会話の記録を大量に分析したものです。

結果は、はっきりしていました。

心の言葉出はじめる目安
欲求の言葉(〜したい、ちょうだい)1歳半ごろ
感情の言葉(たのしい、いや、こわい)1歳半〜2歳ごろ
思考の言葉(〜と思う、知ってる、わかんない)3歳ごろ
行動を組み立てる言葉(こうしてから、こうする)さらにその先

欲求と感情の言葉が先。思考の言葉は、1年以上あとです。

「〜したい」と言えるようになってから、「〜と思う」と言えるようになるまで、ずいぶん時間がかかる。自分の行動を言葉で組み立てて説明できるのは、もっと先です。

これは考えてみれば当然で、思考の言葉を使うには「自分の頭の中」と「相手の頭の中」が別ものだと分かっている必要があります。欲求や感情は、いま自分の中で燃えているものをそのまま口にすればいい。難易度がまるで違うんです。

心は、欲求(感情)から育つ。

言葉の発達が、その順番をそのまま見せてくれています。

心育メンタルは、欲求(感情)・思考・行動

私がメンタルトレーニングでいちばん大切にしている考え方があります。

メンタルとは、欲求(感情)・思考・行動の流れである、ということです。

まず、欲求や感情が動く。「勝ちたい」「悔しい」「怖い」。

その欲求や感情をもとに、考える。「どうすればいいか」「なぜ失敗したのか」。

そして、行動する。

この順番です。行動がうまくいかないとき、原因は行動そのものではなく、その手前の思考にあることが多い。思考が乱れているとき、原因は思考ではなく、その手前の欲求や感情が置き去りになっていることが多い。だから、いつも根っこの欲求(感情)から見ていきます。

そして、娘の言葉を並べたとき、気づいてしまったわけです。

言葉の育つ順番と、メンタルの構造が、同じ順番をしている。

欲求(感情)の言葉が先。思考の言葉が後。行動を組み立てる言葉は、その先。

人間は、欲求と感情から心を組み立て始める生き物なんだと思います。1歳児は、それを毎日目の前で見せてくれています。

「食べたい」「寝たい」「楽しい」「辛い」。

娘の語彙は、心の設計図の1階部分でした。

実践親にできるのは「気持ちの実況中継」

だとすると、この時期の親にできることは、とてもシンプルです。

教えることではありません。子どもの欲求や感情に、言葉のラベルを貼って返すことです。私はこれを「気持ちの実況中継」と呼んでいます。

見たままを、言葉にする「積み木、倒れちゃったね」「雨、ざあざあだね」。正解もアドバイスもいりません。場面に言葉を添えるだけで、子どもは場面ごと言葉を吸収します。
気持ちに、名前をつけて返す「悔しかったね」「楽しいね」「びっくりしたね」。外れていても大丈夫です。「ちがう」と返されたら、それは子どもが自分の気持ちを吟味した瞬間です。
欲求を、言葉にして返す「もっと遊びたかったんだね」「抱っこしてほしかったんだね」。要求を全部かなえる必要はありません。「分かってもらえた」という経験が、気持ちを言葉にする回路を育てます。

娘が「重い〜」と言えたのは、妻が何十回も実況していたからでした。妻に教えたつもりは、一度もなかったはずです。生活の中で、場面と言葉をセットで渡していただけ。それで十分だった、ということです。

自分の気持ちに名前をつけられること。これが、心のいちばんの土台になります。土台という言葉を使うのは、この上に思考が乗り、行動が乗るからです。

実況中継は、即効薬ではありません

泣いている子に「悲しかったね」と言っても、すぐ泣き止むわけではありません。効果を測る道具ではなく、何年もかけて「気持ちは言葉にしていいものだ」という前提を渡していく関わりです。今日の1回で変わらなくて、当たり前です。

つながり大人も、同じ順番で強くなる

ここまで子どもの話をしてきましたが、実はこれ、子どもだけの話ではありません。

私が選手や大人の方に行っているメンタルトレーニングも、順番はまったく同じです。

まず、自分の欲求や感情に気づいて、言葉にする。

次に、その感情から生まれている思考を整理する。

すると、行動が変わる。

大事な場面で緊張に飲まれる選手も、決めたことが続かない大人も、話を聞いていくと、つまずいているのは最初の一歩であることが本当に多い。「自分はいま何を感じていて、本当はどうしたいのか」が言葉になっていないまま、思考と行動だけを変えようとしている。

1階を飛ばして、2階と3階を建てようとしている状態です。

面白いことに、大人を対象にした脳研究でも、感情に名前をつけること(感情のラベリング)そのものが、感情の高ぶりに関わる脳の反応を落ち着かせる方向に働くことが報告されています。実験室での研究なので日常にそのまま当てはめるのは慎重であるべきですが、「気持ちを言葉にする」が単なる気休めではないことを示すデータです。

1歳児が人生の最初にやっていることを、大人はいつの間にか後回しにしている。

「食べたい」「楽しい」と毎日言えていた私たちが、いつから自分の欲求を言葉にしなくなったんでしょうか。

メンタルトレーニングとは、特別な誰かになるための訓練ではなく、この最初の一歩を取り戻すことから始まるものだと、私は考えています。

Q&Aよくいただく質問

うちの子は言葉が遅い気がします。心配したほうがいいですか?

言葉の出る時期には大きな個人差があり、この記事の月齢はあくまで研究上の目安です。また、話せる言葉より先に、理解できる言葉が大きく育っていることが多いです。気になる場合は、自己判断で抱え込まず、1歳半健診などの機会にかかりつけの小児科や自治体の相談窓口で聞いてみてください。

感情の言葉は、いつから教えればいいですか?

「教える」必要はなく、「実況する」だけで十分です。そして実況に早すぎることはありません。まだ話せない時期の子どもも、場面と言葉のセットをずっと録りためています。娘の「重い〜」も、話し始めるずっと前から聞いていたものが出てきたのだと思います。

気持ちを言葉にして返しても、泣き止みません。やり方が悪いのでしょうか?

やり方の問題ではありません。気持ちの実況中継は、泣き止ませるテクニックではなく、何年もかけて「気持ちは言葉にしていいものだ」という前提を渡す関わりです。その場の効果で測らず、続けてください。むしろ「泣き止ませるために言う」が透けると、子どもは敏感に感じ取ります。

動画や知育アプリでも、言葉は覚えますか?

覚える部分もありますが、乳幼児の言語学習の研究では、同じ内容でも「生身の人とのやりとり」の中でのほうが学習が進みやすいことが報告されています。子どもの言葉のエンジンは、画面ではなく、目の前の人との気持ちのやりとりです。動画を悪者にする必要はありませんが、主役は交代させないほうがよさそうです。

大人ですが、自分の気持ちを言葉にするのが苦手です。今からでも変わりますか?

変わります。というより、大人のメンタルトレーニングはまさにそこから始めます。「いま何を感じているか」「本当はどうしたいか」を言葉にする練習は、年齢に関係なく積めます。欲求(感情)が言葉になると、思考が整理しやすくなり、行動が変わっていきます。順番は、1歳児と同じです。

まとめおわりに

なぜ1歳児は、図鑑に載っていない言葉を覚えられるのか。

場面ごと丸ごと吸収しているから。相手の心を読む力が育ってきたから。そして日本語が、気持ちの言葉を耳に残してくれる言語だから。

でも、いちばん大きな答えは、たぶんこれです。

心は、欲求(感情)から育つから。

欲求(感情)が先、思考が後、行動はその上。子どもの言葉は、その順番どおりに出てきます。そして大人のメンタルも、同じ順番でできています。

今日も娘は、抱っこのたびに「おもい〜」と言います。

妻はあいかわらず、笑いながら「ごめんね」と謝っています。

私はそのたびに、「そうだね、重いねぇ」と実況を返しています。心の1階を、家族で一緒に建てているつもりで。

MENTAL COUNSELING 気持ちを言葉にするところから、始めませんか 欲求(感情)・思考・行動の順番で、心を整理するお手伝いをしています。お子さんへの言葉がけのご相談から、選手・大人のメンタルトレーニングまで。オンラインで受けられます。
参考文献
  1. Bartsch K, Wellman HM. Children Talk About the Mind. Oxford University Press, 1995.(欲求の言葉が思考の言葉より先に出ることを示した会話分析研究)
  2. Tomasello M. Constructing a Language: A Usage-Based Theory of Language Acquisition. Harvard University Press, 2003.(共同注意・意図の読み取りと言語習得)
  3. Gentner D. Why nouns are learned before verbs: Linguistic relativity versus natural partitioning. In: Kuczaj SA, ed. Language Development, Vol. 2. Erlbaum, 1982.(名詞バイアス)
  4. Choi S, Gopnik A. Early acquisition of verbs in Korean: a cross-linguistic study. Journal of Child Language. 1995;22(3):497-529.(名詞バイアスが言語によって異なることを示した研究)
  5. Fernald A, Morikawa H. Common themes and cultural variations in Japanese and American mothers' speech to infants. Child Development. 1993;64(3):637-656.(日米の母親の話しかけ方の比較)
  6. 今井むつみ『ことばの発達の謎を解く』ちくまプリマー新書、2013年。
  7. Kuhl PK, Tsao FM, Liu HM. Foreign-language experience in infancy: effects of short-term exposure and social interaction on phonetic learning. PNAS. 2003;100(15):9096-9101.(乳児の言語学習は対人のやりとりで進みやすいことを示した研究)
  8. Lieberman MD, et al. Putting feelings into words: affect labeling disrupts amygdala activity in response to affective stimuli. Psychological Science. 2007;18(5):421-428.(感情のラベリングと脳活動)

足育心育カウンセラー