蹴り出しが軽くならない選手へ|母趾球に乗れているかを決める長腓骨筋

FOR ATHLETES

蹴り出しが軽い選手は、
母趾球に乗っている

長腓骨筋。トレーナーから「外反する筋肉」と教わったかもしれません。でも、あなたの競技で効いてくるのは外反ではありません。母趾球を地面に押しつける力です。

足育心育Channel / 足育カウンセラー視点 / 読了 約6分

01 — THE MUSCLE足裏を、ナナメに渡っている

すねの外側に、腓骨筋という筋肉が2本あります。長いほうと短いほう。名前は似ていますが、仕事は別物です。

短腓骨筋は素直に外側を引きます。教わったとおりの「外反」担当。

ややこしいのが長腓骨筋のほう。この筋肉は外くるぶしの後ろを回ったあと、足の裏に潜り込みます。立方骨という骨の下をくぐって、足裏を外側から内側へナナメに横断し、母趾球の真下に止まる。

つまり収縮すると、母趾球が下に押し込まれる

長腓骨筋 後脛骨筋 交差=あぶみ 母趾球 立方骨
内側からは後脛骨筋が来て、足裏で交差する。この2本が足を下から吊る「あぶみ」になっている。

02 — ON THE PITCH乗れないと、競技で何が落ちるか

母趾球に体重が乗ると、母趾が反って足底腱膜が巻き取られ、足が一枚の硬いレバーになります。硬いから、地面を押した力が逃げずに前に出る。

ここに乗れていないと、足は柔らかいまま。押した力は足の中で吸収されて消えます。具体的にはこうなります。

加速の1〜3歩目

スタートで前に出るとき、足は最大に押し込まれます。母趾球が浮いていると、力が地面に届く前に足の中で潰れる。「頑張っているのに前に出ない」の正体が、ここにあることは珍しくありません。

カッティング・切り返し

外へ踏み出した足は、外反方向の張力で地面に留まっています。ここが抜けると足が地面から離れやすく、減速に余計な一歩が必要になる。相手を外す局面で、その一歩は致命的です。

キックの軸足

インサイドで蹴る瞬間、軸足は外側からの力を受け続けています。母趾球で床を掴めていないと軸がブレて、ボールに伝えるはずの力が姿勢の立て直しに使われます

スパイクの外側だけ減るのは、
外側が強いからじゃない。
内側に乗れていないから、
外側しか残っていない。

03 — HONEST TALK「捻挫予防に腓骨筋」の話、正直に

ここは期待させたくないので、はっきり書きます。「腓骨筋を鍛えれば内反捻挫を防げる」は、言われている割に根拠が強くありません。

40ms足首がグキッといくまでの
おおよその時間
50-80ms腓骨筋が反射で
反応するまでの時間

数字を並べただけで分かります。反射では、間に合っていない。「とっさに腓骨筋が踏ん張って捻挫を止める」という説明は、時間の計算で崩れてしまいます。

じゃあ何が効くのか。手札ごとに、根拠の強さで並べます。

バランス・神経筋トレーニングSTRONG

片脚立ち、不安定面、着地の制御。再発予防で一貫して効果が確認されています。

テーピング/ブレースSTRONG

再発予防に限れば、効果はいちばん大きい。地味ですが、一度やったなら巻いてください。

腓骨筋の筋力アップMODERATE

足首がゆるい選手で筋力低下や反応の遅れは観察されます。ただ原因なのか結果なのかは未決着。

鍛えれば速くなるWEAK

理屈は通る。でも「鍛えたらタイムが縮んだ」という直接の研究は乏しい。機序は妥当、効果量は未知。

結論。腓骨筋のねらいは「強く鍛える」より「先に働かせる」。着く前から準備できているかどうかです。

04 — MENU順番を守ると、入る

②を飛ばして④に行かないでください。ただグラグラ耐えるだけの練習になります。

  1. チューブ外反足首を軽く底屈させた位置で、股関節が回らないよう固定して足首だけ外へ。戻りに3秒。15〜20回。まず短腓骨筋に働き方を思い出させる。▶ YouTubeで探す
  2. 母趾球プレス本命。かかとをまっすぐ保ったまま、母趾球だけで床を押す。指は絶対に曲げない。握った瞬間に別の練習です。10秒×5。▶ YouTubeで探す
  3. カーフレイズを母趾球で上げていくと小指側に転がるなら、②に戻る。高さは要りません。まっすぐ乗り切れる範囲でやってください。▶ YouTubeで探す
  4. 片脚立ち+外乱予防の本体。目を閉じる、頭を振る、ボールを受ける。「揺らされても母趾球に乗り続けられるか」を問う。▶ YouTubeで探す
  5. サイドステップ・片脚ホップ競技の速度へ。着地の一瞬、外に逃げていないか。ここまで来て、初めて試合で使えるようになります。▶ YouTubeで探す

05 — GEARスパイク・シューズを疑う

練習量を増やす前に、道具を見てください。腓骨筋がサボっているのではなく、靴がサボらせていることがあります。

ヒモ
ゆるい靴の中で足は毎歩前に滑ります。滑る足は母趾球に乗れない。脱ぎ履きのたびにほどいて締め直す。それだけで変わる選手がいます。
サイズ
大きい靴は無意識に指で掴んで履くことになる。指ばかり働いて、押しつける仕事の出番がなくなります。
かかとの芯
親指で挟んで簡単に潰れるなら、かかとを支える気がない靴です。倒れっぱなしのかかとを、腓骨筋が一日中戻し続けることになる。
ソール
かかと〜土踏まずは硬く、母趾の付け根で素直に曲がるもの。前足部までカチカチだと母趾が反れず、レバーになりません。
減り方
いちばん正直なカルテ。かかとの外側が減るのは正常。つま先の外(小指側)まで減っていたら、最後まで外側で蹴っているサインです。

06 — AWARENESS自分で判定できる言葉を持つ

最後に、メンタルトレーナーとしての話をひとつ。

指導者から「もっと踏ん張れ」と言われて、直せた経験はありますか。たぶん、ないはずです。何をどうすればいいかが、一切入っていない言葉だから

この記事で持ち帰ってほしいのは、それを置き換える言葉です。

今、母趾球に乗れているか?

着地の一歩、切り返しの一瞬、キックの軸足。その都度、自分に問える。答えられる。修正できる。自分で判定できる基準を持っている選手は、コーチがいない場所でも伸びます

足の裏の帯を、意識できる場所に引っぱり出しておいてください。

NOTE 痛みが続いているなら、練習より先に整形外科での評価を。とくに小指側の付け根の痛みは、放置すると長引くタイプの怪我につながることがあります。この記事は診断や治療の代わりにはなりません。