足底筋膜炎に効く足のトレーニングは?専門家7カ国が合意したプログラムを解説

RESEARCH REVIEW

足底筋膜炎に、専門家が合意した
足のトレーニングとは

世界7カ国の専門家が議論を重ね、足底の痛みに対する段階的な強化プログラムがまとめられました。ただし、これは「効果が証明されたプログラム」ではありません。その意味も含めて、正確にお伝えします。

足育心育Channel / 足育カウンセラー視点 / 読了 約9分

今回取り上げる論文

足底踵痛の治療のための足と足首の強化プログラムの開発:デルファイ・コンセンサス研究(2023年) Osborne et al. Journal of Foot and Ankle Research (2023) 16:67

01 — CONTEXT足底の痛みは、思ったより長引く

はじめに用語を整理させてください。日本で「足底筋膜炎」と呼ばれている症状は、研究の世界では足底踵痛(Plantar Heel Pain:PHP)と呼ばれることが増えています。踵の痛みには足底腱膜以外の原因もあり、「筋膜の炎症」と決めつけないための呼び方です。

この記事では、検索されやすさを考えて「足底筋膜炎」の表記も使いますが、内容としては足底踵痛の話だとご理解ください。

8%ランニング関連の怪我に
占める割合(最大)
46%発症から約10年後も
症状が残っていた割合

2つめの数字は、少し補足が必要です。この研究で報告されているのは「軽度ながら症状が続いている」という状態で、10年間ずっと苦しんでいるという意味ではありません。ただ、「そのうち治る」と楽観していい症状でもない、ということは示しています。

そして、この痛みを抱える人には足と足首の筋機能・筋力・筋のサイズが低下しているという関連が報告されています。だから筋力に手を打てば、結果が変わるかもしれない——これが今回の研究の出発点です。

ただし、ここで注意が要ります。筋力が低下しているのは、痛みの「原因」なのか「結果」なのか。痛いから動かさなくなって弱った、という順序も十分にありえます。これはまだ決着していません。

02 — WHAT IT ISデルファイ研究とは何か

ここがこの記事でいちばん大事な部分です。

これまで、足底踵痛に対する強化プログラムには一貫性がありませんでした。どの筋肉を狙うのか、何を、どれくらいの頻度でやるのか。指針がなかった。

そこで、7カ国から集まった臨床家・研究者・講師が、質問と回答を何度も往復させて意見を収束させました。これがデルファイ法です。今回は70%以上の一致をもって「合意」としています。

価値のある取り組みです。何もないところに、たたき台ができた。

ただ、これを「科学的根拠」と呼ぶのは正確ではありません。デルファイ研究が示すのは「専門家がそう考えている」であって、「やれば治る」ではないからです。

高システマティックレビュー・メタ分析
↑ランダム化比較試験(RCT)
↑コホート研究・症例対照研究
←専門家の合意(今回のデルファイ研究はここ)
低個人の意見・体験談
このプログラムは、
「効果が証明されたもの」ではなく
「これから検証されるたたき台」です。

研究者自身も、そう位置づけています。次の段階として、実際に効くかどうかを試験で確かめる必要がある——そこまで含めて、この論文の結論です。

期待値をここに置いたうえで、中身を見ていきましょう。

03 — CONSENSUS専門家が挙げた3つの運動

回答した24名のうち、92%(22名)が段階的な強化プログラムを推奨しました。その中で、特に多く挙がった運動が3つあります。

ヒールレイズ

n = 10

踵を上げる運動。座位・立位・片足など、複数のバリエーションが挙げられました。

足趾の底屈

n = 8

足の指を曲げる運動。タオルギャザーや、バンドを使った母趾・小趾の底屈など。

短足運動

n = 8

指を曲げずに、母趾の付け根を踵のほうへ引き寄せて土踏まずを持ち上げる運動。

※ n は、その運動を挙げた専門家の人数です。

短足運動は、やり方を間違えやすい運動です。指を曲げて握ってしまうと、別の筋肉の練習になります。指は床につけたまま、足の裏だけを縮める。ここは動画や指導者の確認があると確実です。

進め方について、100%の合意が得られた点

専門家の意見が完全に一致したのが、この順番です。

まず負荷を増やす。
次に、動きの機能性を高める。

いきなり複雑な動きに進まず、まず重さで筋力の土台を作る。筋力トレーニングの一般的な原則どおりです。

04 — SAFETYプログラムを見る前に

先に読んでください

以下に紹介するのは、臨床家が患者に処方することを想定した内容です。8RM・10RMといった負荷設定は、本来その人の状態を評価したうえで決めるものです。

痛みがある状態で、自己判断で高負荷を始めないでください。踵の痛みには疲労骨折や神経の絞扼など、別の原因が隠れていることがあります。原因によっては、負荷をかけることで悪化します。

まずは整形外科で原因を確認し、そのうえで理学療法士や医師と一緒に進めてください。この記事は診断や治療の代わりにはなりません。

RM(Repetition Maximum)とは、その回数をぎりぎり達成できる重さのことです。8RMなら「8回で限界がくる重さ」。数字だけ真似ても、自分にとっての適切な重さは分かりません。

05 — PROGRAM3つのタイプ別プログラム

研究では、3つの異なる患者像を想定して議論されました。Stage 1から始め、痛みや困難がなければ次へ進むという設計です。

TYPE 1 若年のアスリート 毎日実施

より高い負荷と頻度、そして機能性の高い運動が求められます。

ステージエクササイズ負荷と回数の目安
Stage 1ヒールレイズ/母趾底屈(バンド)/短足運動(座位)8RM程度で6〜12回 × 4セット
Stage 2つま先を広げる/つま先を背屈させた立位ヒールレイズ/短足運動(立位・片足)8RM程度で6〜10回 × 5セット
Stage 3つま先を背屈させた立位片足ヒールレイズ/ウォーキングランジ10RM・20RMなど高負荷
TYPE 2 体重が多めの中年成人 2日ごとに実施

足に継続的な負担がかかっているため、頻度を調整しながら足の内在筋を鍛えます。

ステージエクササイズ負荷と回数の目安
Stage 1短足運動(座位)/母趾底屈(バンド)/小趾底屈(バンド)10RM程度で8〜12回 × 4セット
Stage 2つま先を広げる/つま先を背屈させた立位ヒールレイズ/短足運動(立位)8RM程度で6〜10回 × 5セット
Stage 3つま先を背屈させた立位ヒールレイズ/ウォーキングランジ8RM・15RMの負荷
TYPE 3 高齢の成人 2日ごとに実施

日常生活動作の維持と、足の筋力向上を目指します。

ステージエクササイズ負荷と回数の目安
Stage 1足趾底屈(バンド)/短足運動(座位)/片足立ち(2分間)10RM程度で8〜12回 × 4セット
Stage 2つま先を広げる/ヒールレイズ(座位)/足趾底屈(バンド)8RM程度で6〜10回 × 5セット
Stage 3立位ヒールレイズ/椅子スクワット8RMの負荷

※ 表は横にスクロールできます。

06 — SHOES足育カウンセラーとして、付け加えたいこと

この論文には靴の話がほとんど出てきません。強化プログラムを作る研究なので当然ではあるのですが、現場に立つ者として、ひとつ言い添えておきたいことがあります。

短足運動もヒールレイズも、母趾球で地面を押せることが前提になっています。ところが、大きすぎる靴やかかとの芯が潰れた靴を毎日履いていると、足は靴の中で滑り、指で掴む癖がつきます。

1日のうち、トレーニングに使う時間は10分。靴を履いている時間は10時間です。どちらが足の使い方を決めているかという話でもあります。

あわせて読む 運動する前に、靴を見る理由 →

07 — MINDSETこの論文が認めている、もうひとつの限界

専門家が知恵を出し合って、具体的な行動計画ができました。それでも論文には、正直な限界が書かれています。

「患者の好みや意見が調査されていない」という点です。

実際、足底踵痛の患者が「提供された運動に不満を感じる」と報告した質的研究もあります。専門家が最善だと考えた運動と、本人が続けたいと思える運動は、必ずしも一致しません。

伝えたいポイント

どんなに専門家が合意した優れたプログラムでも、本人が「やりたい」と思えなければ、習慣にはなりません。

週に4セット×3種目を、2日おきに。紙の上では簡単です。でも実際に半年続く人と、2週間でやめる人がいる。その差を作っているのは、筋力でも知識でもありません。

だから私は、足元を整えることと同じくらい、続けられる状態をつくることを大事にしています。

私自身、高校時代の怪我で「早く知っていれば」と悔しい思いをした経験があります。だからこそ、正しい情報を、続けられる形で届けたいと思っています。

正しい靴選びと足のケア。そこにマインドの部分を重ねる。この2つが揃ってはじめて、体は変わっていきます。

まとめ 今回のプログラムは、専門家の合意によるたたき台です。効果が証明されたものではなく、これから検証される段階にあります。痛みがある方は、自己判断で始める前に医療機関で原因を確認してください。そのうえで、ご自身の状況に合わせた進め方や、続けるためのサポートが必要でしたら、ご相談ください。